12月に入りここマンハッタンでも街はクリスマス気分で浮かれ始めていた。
しかし、俺のようなフリーランスなカメラマンはそれどころではない。
日本から単身渡米した90年代は自ら築き上げてきた人脈を生かし日本から来たミュージシャンやタレントの写真を撮りニューヨークでの彼らの活動を一手に引き受け忙しく飛び回っていたものだが最近は不況のせいか少しずつ仕事が減り始めていた。
こんなハズではなかったのに・・・考えても仕方の無いことだ、忘れよう・・
日本の広告代理店からの依頼でこれから売り出そうとしているアイドルグループのセントラルパークでの撮影を終えジョン・レノンを偲んで作られたストロベリーフィールズをながめていた。
沢山の観光客が訪れるこの場所はクリスマス・イブという事もあり人が溢れかえっていた。
「久しぶり、約束覚えていてくれたのね、うれしいわ」
と、女性から声を掛けられた。
綺麗な女の人なのだが誰なのかまったく思い出せない・・・
「あ〜久しぶりだね〜もちろんだよ」
まずい、八方美人の性格が災いして話を合わせてしまった、これで今まで結構失敗している・・
「私も日本での大事な取引があったんだけど先方に無理言ってこっちに来ちゃったの、あなたとの約束あったからね」
・ ・・何の事だ?
「でもあなたいい加減だったじゃないあの頃、だから私来ないかと思って・・・ありがとう!」
・ ・・泣き始めたぞ!どうすんだコレ?
「忘れる訳ないじゃないか、俺はどんなにいい加減でもあの時の約束はずっと覚えていたよ」
・ ・・言ってしまった・・またやってしまった・・・全然思い出せない・・・なんでそんな事いうの?俺
「10年後のクリスマス・イブにセントラルパークのストロベリーフィールズで俺は待ってる、もし俺と一緒になる気があるなら来てくれ・・定禅寺通りであの日のあなたとの約束を守る為に私、彼と別れて来たの」
あっ・・!!・・思い出した!
当時、渡米する少し前、仙台での仕事があり仕事仲間での打ち上げがありその時にメイクの仕事をしていた綺麗な女の子が同席していた。名前は「洋子」
確か当時彼女は大手広告代理店勤務の若手ではナンバーワンといわれて今ではその会社の役員にまでなった男と付き合っていた、今でもその会社からの仕事がありこうやって細々と食いつないでいけているのはその会社のおかげともいえる。
当時の彼女に俺が言ってもどうにもならないだろうと冗談半分で言ったのを思い出した。
「彼にはきちんと説明してきたわ、わかってもらえなくてかなり怒っていてけど・・・でもいいの・・私はあなたとの約束の方が大事だったのよ、いえ私達にはね」
・ ・・・・ねって、無理やり別れて来たんじゃないですか?!・・しかもかなりあちらも怒っているって言ってましたよね?
まあ当時、いや今も素敵でらっしゃいますが・・・あの〜・・仕事来なくなるかもしれないじゃないですか・・・・好きになってもらうのはそれはもうありがたい事なのですが・・・仕事無くなるのも大変な訳ですし・・・
「そうだよ俺達にはあの時の約束が一番なんだよ」
・・いやっ・・・そんな事いっていいのか俺?・・・将来の不安とか・・大丈夫なの?・・そして彼女大事な仕事もすっぽかして来てんだぞ・・・かなり感情に流されてないか?・・・そしてさっきまで覚えてなかったじゃないの俺?・・・たまたまここに仕事で来ていて休憩していただけでしょ・・・
「これからの人生はあなたと一緒に歩いていく」
あの・・・「人生」とかかなり重くなってきてんですが・・・本当に大丈夫か?・・
「歩いていこう」
・・・・・・・・え〜〜〜〜〜〜〜!・・話がこのまま進んでしまうのですか?・・・仕事は?・・
「メリークリスマス!洋子!」
え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!
(この物語はフィクションであり実在する人物等とはいっさい関係ありません)
Happy Christmas (War Is Over)